所長からのごあいさつ
息子は、21歳。重度の自閉症で、言葉も殆どありません。 息子が幼少の頃は、行動障害が激しく、言葉が通じず、自分の思い通りにことが運ばなければ激しい癇癪(かんしゃく)を起こし、跳ねとんで足を骨折したこともありました。 こちらの言葉が通じない、息子の思いも伝わらない。
服が着られない、トイレやお風呂も拒否。物の位置が変わる度に激しい癇癪。 言い聞かせることも、しつけも全くできない状態で途方に暮れました。 そして、早々に抗精神薬の投与に踏み切るしか道がありませんでした。
その彼を救ってくれたのが、トモニ療育センターでの「心を育てる育児と教育」でした。 ヘレンケラーがサリバン先生と出会い、野生児のようだった彼女が教育を受け素敵な女性へと変身したように、言葉の理解も絵の理解もできず世の中のことを認知できない息子にも「教育」が必要でした。
「言葉が出るのを待つのではなく、文字を教え、言葉が出た時には二語文・三語文が話せるようにする。」 「消えていく言葉ではなく、抽象的な絵だけでなく、文字が読め、確実なことが伝わり、理解できるようにしていく。」 「数字を入れ、順番や手順などが分かるようにする」 「時計が読め、具体的に見通せる生活ができるようにする」 「お金が分かり、使えるようにする」 とトモニ療育センターで指導を受けながら、息子に教えていきました。 そして、教える中で、 「相手の指示に従ってやり遂げていく心」 「やり遂げた後の達成感と充足感」 「解る!できる!という喜び」 「嫌なことでもやり遂げていく理性。やりたいことでもやめる理性。」 を育てていくことができました。
そうして、最初は座らせるだけでも大変だった息子が、やがて言葉が分からなくても、 見て分かる”タイル算”を通して学ぶことが好きになったのです。 さらに四則計算から分数・小数を理解し、時計が使え、金銭が理解でき、買物ができるようになりました。 今ではレシピを読み、数量を計り、料理を作れるまでになりました。 今は、公共機関を使って片道2時間かけて通勤し、家庭では料理や洗濯や掃除なども担い、家庭の中でなくてはならない存在となっています。
好きな遊びさえ見つかりにくい彼ですが、教えた料理を楽しみ、親子で取り組んだ山歩きが余暇となり、学んだ幾何と磨いてきた手を使って教材つくりに励んでくれています。 役立つことを喜び、今も学び続けています。 足るを知り、今を喜び、生活を味わい、役立つことを喜べ、幸せと感じることができる。 それは、障害があろうとなかろうと、私たちもまた豊かに幸せに生きる道だと思っています。 私達トモニ発達支援所は、障害をもつ子ども達ひとりひとりの分かり辛さを把握することに努め、生きていくために必要な力をつけられるよう、教材や教え方に創意と工夫を重ね、ご家族とともに子ども達の将来に責任がもてる支援をしていきます。
ご家族の孤独感、痛み、悲しみに共感し分かち合い、そして、喜びや幸せや希望をともに見出し歩んでいく努力を惜しみません。 「遠き所を近く見、近き所を遠く見る。(宮本武蔵)」 今を大切に、子ども達とそのご家族とともに歩んでいきます。
NPO法人 トモニ発達支援所 所長 堀内宏美
所長の略歴
1992年 | 徳島大学医学部卒業 徳島大学第一内科 、その後、徳島健生病院、第一病院などに勤務 |
1994年 | 第2子誕生(重度自閉症児) |
2004~2012年 | 徳島自閉症児とともに会 会長(毎月、母親のための勉強会を開催) |
2005年~ | 徳島健生病院 勤務 |
2007年~ | 愛媛県トモニ療育センター研修生 |
2012年~ | 徳島県自閉症協会 会長 |
2013年 | 徳島ペアレントメンター協会 会長 |
2014年 | トモニ発達支援所 開所 |
2015年~ | 日本自閉症協会 理事 |